1928年公開された「蒸気船ウィリー」でミッキーマウスがスクリーンデビューしてから90年。映画、パーク、コンサート、アイスショーなど世界中で様々なエンタテイメントを展開するディズニー。
ミッキーの生みの親のウォルト・ディズニーが大事にしてきたDNAを90年間守り続け、今なお進化を遂げているが、今回注目するのは「映画音楽」その楽曲は世界中の人々に愛される名作揃いだが、曲作りはどうやって行われているのか、日本語版の歌詞はどうやって作るのか。その制作過程は語られることが少なく、謎が多い。そこで今夜はディズニー音楽の製作者たちが映画音楽の秘密を解説
というナレーションから始まった2019/7/7放送の関ジャムが神回だった。
関ジャムは身近な音楽の奥深さを楽しく学ばせてくれる素晴らしい番組。
残念な点は見逃し配信がないことと、DVD化されていないということ。
素晴らしい内容を、もっともっと色んな人に届いて欲しいなと思ったので、
「ディズニー映画音楽の秘密に迫る!」をまとめました。
この記事を読むと、ディズニーの映画音楽がどの様に作られているか、キャスティングはどうやって決めているの、日本語版の歌詞はどうしているのか、完全非公開の声優オーディションの実態など、ナゾの多い制作過程を知ることができます。
まずはゲスト3人の紹介
- (有)ヴォイスフィールド代表取締役社長
- 日本語版の歌唱監督・演出
- 「リメンバー・ミー」「ファインディング・ドリー」「モンスターズ・ユニバーシティ」「ベイマックス」などに携わる
- 声優
- 数々のディズニー作品で声優を務める
- ディズニー初、アニメーション&実写で同じキャラクターを演じる(アラジンのジーニー)
- 代表作:ドナルドダッグ、野獣(美女と野獣)、ジーニー(アラジン)、スティッチ(リロ&スティッチ)、リトル・マーメイド(セバスチャン)、シュガー・ラッシュ(ラルフ)、シンデレラ(ジャック)、ムーラン(ムシュー)
ディズニー映画音楽の制作過程
- 映画製作開始
- 日本への情報伝達
- 完全非公開のオーディション実施
- 声優決定
- 翻訳作業
- 歌録り
- 音の調整
- 修正
- 日本語版完成
1、映画製作開始
- アメリカのディズニーで映画製作開始
- 会社にすべてのウォルトのアイディアが蓄積されているので、引っ張り出して、今の時代に合うかを制作陣で検討
2、日本への情報伝達
- 映画の内容がウォルト・ディズニー・ジャパンに段階的に伝えられる
- 作品公開の2~3年前
3、完全非公開のオーディション実施
- ディズニー・ジャパンが日本語版に向け完全非公開声優オーディションを準備・実施
- 作品公開1年以上前
- 目黒さん、市之瀬さん参加
キャスティング
- ディズニーのプロデューサー、制作会社、セリフ・歌唱の演出家がそれぞれ推薦方式でキャスティング案を出す
- キャラクターのオリジナルにボイスマッチするか?
- 声が似ているか?
- 年齢感
- キャラクターと声優の背景が繋がっているかの親和性
「アナと雪の女王」のエルサ役の松たか子さんのキャスティングの経緯
エルサ
↓
王女
↓
日本で王女っぽさを感じさせる人
↓
日本の伝統芸能
↓
歌舞伎
↓
松本家
↓
松たか子さん
その後、オーディションを経て松さんがエルサ役に
オーディション
- ディズニーの吹替版キャストはだれであっても公平にオーディションで決定
- 歌唱シーンがある役は歌も審査される
- ディズニー楽曲は音楽を一切変えてはいけないので、劇中歌のキーに合わせられるかを確認
- アメリカからオーディションキット(課題曲、劇場歌を編集したカラオケ音源)が送られてくるのでそれを使用する
- オーディションキットはバラード系・リズム系など1~2曲で、オーディションの約1週間~1日前に参加者へ渡される
- 推薦者を1人ずつオーディション
→参加者には参加人数・他候補者名など一切伝えない
→1作品で多い時は100人以上参加。主役は50人以上参加することもある
- 声質
- 演技力
- 音域などのポテンシャル
あまり上手すぎても良くない。こうすれば上手く聴こえるみたいな技術だと、スレて聴こえたりするので、役がピュアな役だとイメージと合わない。逆にそんなに上手くなくても色々演出すればここまで上がるという点を見ている(市之瀬さん談)
オーディション参加者への情報も限定的(素材もまだ世に出ていないものなので必要なセキュリティ)
- 作品名
- キャラクター名
- 役どころ
- 本国の役者など必要最小限の基本情報のみ
- ストーリーはキャラクターに関連する冒頭のみ
4、声優決定
- 日本のキャスティング案をアメリカに伝え、確認が取れ次第声優決定
オーディションで合格してもキャスト変更の可能性がある
ディズニーの試写室の前にノートが積んであって、スタッフが自由に感想をノートへ書いていく
↓
その意見を参考にストーリー変更、それを8回繰り返す
↓
声優が変わる場合もある
5、セリフ・歌唱の翻訳作業
- 訳詞家がたたき台を作りチーム全体で修正
- 翻訳の正しさよりも世界観・ストーリー・メッセージを重視
- アニメーションの口の動きに合わせる
日本語では3文字の単語だが英語では3つの言葉になるので、
エルサが雪山を登ってったときに1ライン1ラインで何を言いたいか?ではなく、
3分で何を伝えたいか?というふうに考える
「Let It Go」
忠実な訳:かまわない それでいいのよ
→文字数もリップも合わない
日本語版:ありの ままの
→母音を同じにすることでリップを合わせることに成功
VTR(雪山でエルサが歌っているシーン):口の動きに注目
→英語版の「Let It Go」→日本語版の「Let It Go」
目黒さん「日本語でも「レット・イット・ゴー」はわかってもらえるんじゃないかという方向へ行くときもあったが、「ありのままの」を聴いたときは鳥肌がたった」
山寺さん「「アラジン」のアニメーション版のときに”ハンサム”ってあったんですけど、「ム」のときのジーニーの口が開いていたので、”ハンサムァー”って歌った。それを良かったと言ってくれる人がいて、よく見つけたなって思った」
VTR:”ハンサム”の口の動きに注目
6、歌録り
- 妥協を許さないので、1曲20時間以上もかかる場合もある
- リップ合わせはもちろんだが、オリジナル版のノリをいかに再現するかが重要
- 日本語版のオリジナリティーを出すための工夫がたくさん
「フレンド・ライク・ミー(アラジン)」:オリジナル版のノリの再現
- ロビン・ウィリアムズ(アメリカの俳優、コメディアンでアメリカのジーニー役)に負けないように、それ以上の変化をつけたかった
- ジャズとかいろんな音楽の融合で、テンポも速いから、ロビン・ウィリアムズはどういう風に表現したかったのかを考えて歌った
- 今回の実写版のウィル・スミスの「フレンド・ライク・ミー」はまた全然違う
- ウィル・スミスはラッパーだから、そのノリがいろんなところに出てて、メロディになってない部分の音符は×印になっている
- 音符は×印は自由に歌っていいわけじゃなく、その音符にもならないような歌い方をちゃんと汲み取って歌わないといけない
- すごく苦労した
VTR(アラジン):次々と変わる声色とノリ、その口の動きに注目
→英語版の「フレンド・ライク・ミー」→日本語版の「フレンド・ライク・ミー」
「フレンド・ライク・ミー(アラジン)」:オリジナリティーを出す工夫
ロビン・ウィリアムズは日本人がよくわからない、アメリカで有名な人のモノマネを入れてくる。そこで、”アメリカのアナウンサー”を【実況といえば当時は古舘さんかな】と置き換えて、”おっと○○~”とか言おうかなとか。ちょっと”おねえっぽい人”がいたら【ちょっと身体もゴツイし美川さん風でやってみようかな】などスタッフと相談しながら作り上げていった
VTR(アラジン)
→日本語版で「おおっと、今世紀最大のパレード!」「まぁ、なんてキレイなんざましょ」を確認
7、音の調整
- 音の整音・バランスをとるミックス作業は52にも及ぶ言語をまとめてイギリス・ロンドンで1人の責任者が行う→ズレがでないように一ヵ所にまとめて作業する
8、修正
- 日本に送られてきた完成前作品を日本チームがチェック
- 修正点をイギリスチームに伝える
聴こえる音の違い
外国人と日本人には聴こえている音が違うので、最終的に日本のスタッフが聴いて”ここもうちょっと上げないと日本人の耳には聴こえない””イギリス人の耳にはすごいうるさいんだけど大丈夫?”などのやり取りがある
文法の違い
英語は大切な言葉が前にあるが、日本語は最後にくることが多いので、そこを絞られてしまうことがある
- I go to school 私は学校に行きます
- I don’t go to school 私は学校に行きません
9、日本語版完成
- おそよ3年もの歳月をかけて日本語版の音楽がつくられている
貴重映像
テレビ初公開「モアナと伝説の海」のオーディション映像
屋比久知奈(やびくともな)さんがレコーディングブースに1人で入り課題曲を歌っている様子
サプライズで合格発表される様子
屋比久さん「オーディションできた事自体が嬉しかったので、勝手に満足しちゃってた」
市之瀬さん「屋比久さんの一番いいところは、僕が聴く限りモアナという主人公と色々な意味で似ている」
海を愛し大海原へ旅立つモアナと夢に向かい沖縄を旅立つ屋比久の境遇も一致している
(キャラクターと声優の親和性)
【注意】通常ははディズニー・ジャパンから合格通知が事務所に届く
屋比久知奈(やびくともな)さん
- 琉球大学4年生の時に、ディズニーヒロイン史上最大級のオーディションでモアナ役をつかむ
- まったくの新人がヒロインに異例の大抜擢だと話題になる
山寺さんのオーディションに関するエピソード
「一番初めのディズニー作品は「美女と野獣」だった。30年近く前。ディズニーのオーディションは厳しいっていうのは分かってるんで、ダメで元々っていう感じで。でも「アラジン」のジーニーに関してはこれは絶対にやりたい役だと思って必死だった。受かったときは嬉しかったですよ。ロビン・ウィリアムズがとにかく好き勝手いろんなことをやるので、それに追いつくのが大変というか、どっちかというと新人の頃から器用貧乏になるなみたいなことを言われて、器用なのがいいわけじゃないだろう、声優としてって、芝居なんだからって言われていたんですけど、これは器用じゃなきゃ出来ないだろって!やっと発揮するときが来たかって思って。とにかくオリジナルの人に近い表現を求められて、僕が前に出る必要がないっていうか、でちゃいけない」
言語が違ってもキャラクターの声に統一性があるか検証映像
- 「Let It Go」の目指した先は、「どの言語でも同じエルサ」
検証VTR
→世界各国のエルサの歌声は似ているのか?1コーラスを10の言語で歌唱
英語(IDINA MENZEL)→フランス語(ANAIS DELVA)→ドイツ語(Willemijin Verkaik)→オランダ語(Willemijin Verkaik)→北京語(HU Wei Na)→スウェーデン語(Amika Herlitz)→日本語(松たか子)→スペイン(ラテンアメリカ)語(Carmen Sarahi)→ポーランド語(Lasia Laska)→ハンガリー語(Furedi Nilokett)
- 横の連携はまったくない
- どの国のスタッフも同じ視点で作品に取り組む
- 本国に合わせればおのずと統一感が出てくる
みんなが選んだディズニー映画音楽ベスト10
10位「フレンド・ライク・ミー」(アラジン)
- 次々変わる声色、ハイテンションソング
- 1930年代のジャズをイメージして作曲
- 名優ロビン・ウィリアムズの独自のノリからジーニー節が生まれた
9位「輝く未来」(塔の上のラプンツェル)
- 10代から圧倒的支持、名バラード
8位「君とともだち」(トイ・ストーリー)
- 世界初の長編フルCGアニメーション
- 友情をテーマにしたバディソング
- 当時最先端の映像にあえて人間味溢れる音楽を合わせた
7位「サークル・オブ・ライフ」(ライオン・キング)
- 動物の世界へ一気にいざなう、壮大のオープニングナンバー
- ズールー語やアフリカ音楽を取り入れた壮大な曲
- サウンドトラックの売上はアニメーション作品で世界一
- 楽曲に合わせ急きょスケールの大きなオープニングに変更
6位「パート・オブ・ユア・ワールド」(リトル・マーメイド)
- 女性の支持多数、夢みるプリンセス・バラード
- ウォルト亡きあと、一時低迷したディズニーアニメーションの復活を告げた大ヒット作
- 当初は「バラードは子どもが飽きる」とカットの方針も同曲を残した事で大人の女性にも支持される作品になった
5位「アンダー・ザ・シー」(リトル・マーメイド)
- アカデミー主題歌賞受賞のミュージカルナンバー
- ブロードウェイのミュージカルスタイルと取り入れ大ヒット
- 作詞家がカニのセバスチャンを”カリブ出身”という設定にし、カリプソを入れた事で軽快な曲になった
4位「星に願いを」(ピノキオ)
- ディズニーを象徴する不朽の名作
- ディズニー初のアカデミー主題歌賞受賞
- 歌い出しから1オクターブ跳ね上がる音階が特徴
- 夢や希望の大切だを訴えかけるディズニーを象徴するメッセージソング
3位「美女と野獣」(美女と野獣)
- シンプルで美しいメロディー ディズニー至宝の1曲
- アカデミー賞作曲賞と主題歌賞を受賞
- 主に歌メロが5つの音符で構成されるシンプルなリズム